ピアノ四重奏 ハ短調 Op.32 

ピアノ四重奏作品32は、1820年~1821年に作曲された。3楽章よりなるこの曲は、演奏時間が35分にも及び、特に第一楽章だけで17分の大曲である。

この曲は、ピアノとヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが同等の関係でその関係を担っているかと
言えば、そうとは言えない。むしろ、小協奏曲と言った方が正しい様な、作品7のピアノ協奏曲ハ長調に近い存在と言えるのではなかろうか。ピアノは最初から最後まで、ほぼ主役を演じきる。

話は変わるが、古典派―ロマン派の多くの有名作曲家が、ピアノ四重奏なる物を作曲していると漠然と思っていたが、古典派―ロマン派の大作曲家達がそう多くは作曲していない。

ベートーヴェンでさえ、ピアノニ重奏は7曲も作曲しているのにピアノ四重奏は1曲も無い。シュー
マンが1曲、ブラームスが3曲にすぎない。その様に考えた時、小協奏曲風ではあるにせよ、ピアノ
四重奏という領域で限定するとしたら、クーラウが3曲も作曲しているという事は、必ずしも弦楽器を含む曲が苦手だったわけではなく、むしろ、あらゆる分野にそれなりの作品数を残す、真の意味で職人的な作曲家としてのクーラウ像が見えて来る。

クーラウも、モーツァルトと同様に、比較的若い時期から代表作を作曲して来た。例えば、1810
年に作曲されたピアノソナタOp.4などは、ピアノソナタの中でも傑出している。であるから、後世
の我々が、ベートーヴェンの様に、彼が人として成長して行くに比例して作品も段階を踏んで、内面的な深さが物差しで測った様に、精神の軌跡が見てとれるものではなく、換言すればその事がクーラウの天才中の天才という事を証明する一つの事実かもしれない。であるからこそ、晩年の最高
傑作が生涯一曲しか作らなかった弦楽四重奏なのかもしれない。

解説 田上紳

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